行列のできる防災訓練があります。
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  • NPO法人プラス・アーツ
  • イザ!カエルキャラバン!

これまでの防災訓練を変えた、
「かえっこバザール」。

楽しみながら防災に必要な知識やスキルを学べる防災訓練プログラム「イザ!カエルキャラバン!」は、2005年4月から約半年かけて行われた兵庫県と神戸市が事務局を務める復興記念事業「震災から10年 神戸からの発信」のイベントとして初めて行われた。会場のグリーンアリーナ神戸には関係者の予想を上回る3000人以上の親子連れが集まり、スタジアムの外まで行列があふれた。

従来までの地域の防災訓練につきものだった「若い世代が集まらない」「参加者は同じ顔ぶれ」などの課題を解消した理由の一つは、藤浩志氏が開発した「かえっこバザール」の高い集客性にある。
「かえっこバザール」とは、いらなくなったおもちゃを持ってきて、独自の子ども通貨「カエルポイント」に換え、ほかのおもちゃと「交換」するというシステム。「カエルポイント」を発行するワークショップや遊びのコーナーなどを設け、子どもたちの自主的な活動を生み出すことができるのが大きな特徴となっており、すでに各地で開催され、子どもたちから大きな人気を博していた。

「イザ!カエルキャラバン!」は、この「かえっこバザール」をベースに、ゲーム感覚で楽しみながら消火・救出・救護などの知恵や技を学べる「防災訓練プログラム」を組み合わせたことで、子どもたちが積極的に体験したいと思う防災訓練を生み出すことができた。

  • 2005年に初めて行われた「イザ!カエルキャラバン!」には多くの人が集まった。
  • 皆が持ち寄ったおもちゃがずらりと並ぶ。自分の持っている「カエルポイント」とおもちゃを交換する。
  • 「防災訓練プログラム」に参加すればさらに「カエルポイント」をもらえる仕組み。
  • おもちゃのオークションは、最も子ども達が楽しみにしている時。

被災者へのリサーチから、
新しい防災訓練をつくる。

もともと神戸市は、藤氏の「かえっこバザール」の開催のみを予定していたが、イベントの依頼を受けた藤氏と永田宏和氏は、「過去と真摯に向き合い、そこから学びや教訓を得ることから出発しないと、真の復興につながらない」と共通した思いを持っていた。そこで、「かえっこバザール」のシステムをベースに、防災訓練の体験型ゲームを取り入れたプログラムを新たに開発することにした。

その際、二人が最も重視したのが、「被災者へのリサーチ」だった。災害時に真に役に立つ知識や技、そして一番確かな情報は、被災者にしかないという確信があった。そこで、有志の学生と一緒に被災者約50名を対象としたヒアリングを実施。被災直後は、恐怖やトラウマから体験が語れなかった被災者も、10年という年月が辛い思いを和らげ、当時感じたこと、役に立ったことなどを率直に話してくれた。こうしたリサーチをもとに、防災プログラムは開発された。関係者へのリサーチを重視する姿勢は、この後立ち上げられたNPO法人プラス・アーツの方針として引き継がれている。

  • 被災者の元へ伺い、ヒアリングを行う有志の学生たち。

「主役はあくまでも地域」という姿勢で、
国内外へ。

「イザ!カエルキャラバン!」を継続していく基盤として、永田氏は2006年7月にNPO法人プラス・アーツを設立。同年9月には神戸市以外の開催としては初めて東京ガス㈱の企業館で「イザ!カエルキャラバン!」を実施し、翌年の4月には横浜で「地震EXPO」を開催。各マスコミから連日取材を受けるほど、その反響は大きかった。

この二つの大きなイベントをきっかけに、「イザ!カエルキャラバン!」は、同NPO法人主催や、企業や自治体との共催、地域団体への支援を含めると、全国20の都道府県で150回以上、海外では10カ国で開催されている。
これだけ広がりを見せている一つの要因は、オリジナルプログラムの豊富さにある。体験型プログラムの他、クイズやカードゲームなど、22のプログラムが用意されており、主催者側にとってはそれだけ選択肢が広がるというメリットがある。
もう一つは、目的をあくまでも、「地域での防災訓練の継続と自立」にしている点だ。運営スタッフは地域からボランティアを募り、事前にレクチャーを行って、主体的に動いてもらえるようサポートしている。地域の課題によってプログラムをアレンジしたり、オリジナルのプログラムを開発も行っている。またカエルのキャラクターをその土地に馴染んだ動物に変えるなど、独自の発展を見せているところもある。

「自分たちはノウハウという“種”を蒔く役割、それを育てていくのは地域の役割」という同法人の姿勢が、これだけの広がりを可能にしている。

  • 東京ガスの企業館では2006年から毎年開催されており、人気催事として定着している。
  • 山形県米沢市での開催の様子。町内会や学校など、共催するパートナーは様々だ。
  • 中南米グアテマラでも開催。
  • ブータンでは小学校で開催した。