箱は、この世でいちばん形を変えられる家具です。
  • 災害発生直後
  • 建築
  • 久冨敏明
    萬田 隆
    安森弘昌
    田頭章徳
  • 建築家、神戸芸術工科大学准教授
    大阪産業大学特任教授
    神戸芸術工科大学准教授
    神戸芸術工科大学助教
  • FASTBOX

収納、そして机にも使える「箱」の可能性に着目。

東日本大震災発生の1ヶ月後、久冨氏は早稲田大学の古谷誠章研究室による岩手県田野畑村の避難所支援活動に参加した。そこで、テンポラリー・ブースと収納棚用のダンボール箱を制作した。

避難所では、生活用品が床に置かれていた。箱は、それらを整理する収納棚として使われ、避難されている方々からの要望は高かった。

この「避難所で箱は高い有用性を持つ」という気づきが、大規模災害時の避難所へ出来るだけ早く箱を届けるプロジェクト「FASTBOX」の立ち上げのきっかけとなった。

  • 「避難所で生活される方々にとって、箱が生活を立ち上げるために有用である」という気づきから生まれたプロジェクト。「箱」は、収納に加えて、机や椅子として使われる。

収納・机・椅子、間仕切り。
多くの機能を兼ねる設計。

「箱」の設計は、収納・机・椅子、そして間仕切りとしての使用を達成するために、①運搬しやすい組立式とする、②組立のための道具と金具を最小限におさえる、③短時間で容易に組立ができる、④耐久性と軽量化を実現し、入手が容易な材料を使用する、⑤収納に加えて椅子や机、受付カウンター、本棚、更に小さな建築の構造体としても使える多機能性を実現する、⑥カーテンパーテーションの土台としても機能する、という6つの条件を設定し、萬田隆氏(構造家)、安森弘昌氏(木工家)、田頭章徳氏(家具デザイナー)と共に設計を進めていった。

現在の箱のデザインは、シナ合板を加工した5枚のパーツで構成されている。パーツのジョイント部分には金物やビスを使わず、各々の端部にホゾ(切り欠き)を加工し相互にかみ合わせる設計となっている。また、設計のデータがあれば、NCルーターという加工機械を持っている木工所で同じ品質のFASTBOXを作ることができる。このことによって、被災していない木工所で大量に生産し、避難所まで届けることが可能となる。

今後のFASTBOXの展開について、久冨氏は「このアイデアを一人でも多くの方に見てもらい、賛同していただける方を増やすことから始めたい」と話す。すでにFASTBOXは、2013年度のSDレビュー※に入選するなど、建築デザイン分野で注目されている。今後、起こり得る災害に向け、より早く十分な量の箱が避難所に届けられるよう、プロジェクトの発展が期待される。

※SDレビューは、建築家がひとつの明確なコンセプトを導き出す思考の過程を、ドローイングと模型によって示そうという、槇文彦氏の発案のもとに、鹿島出版会主催が主催する公募の入選展。1982年から開催され、2013年は第32回となる。