アニメなら、見なきゃいけない情報が、見たい情報になる。
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  • ーアニメーションを活用した洪水対策知識の啓発プロジェクトー

 

困っている人たちの信頼できる友達でありたい。

2011年秋に発生した大洪水の際に、何か社会の役に立ちたいと考えたチュラロンコン大学のOBたちが、食料の配給や土嚢積み、清掃活動など被災地での支援活動にボランティアとして参加。また同時に、国営放送局ThaiPBS(Thai Public Broadcasting Service)のニュース番組の素材となる現地情報を集めるボランティア活動にも参加した。

現地で収集した情報の大半はニュースに活用されず埋もれ、バンコクやその周辺の被災地では伝えるべき情報が住民に伝わらず混乱が起こっている。一方、インターネットでは不確実な情報がまさに洪水のように溢れている。このような状況に対し、アニメーションというクリエイティブなコミュニケーション手法で必要な情報を伝えようと大学時代の友人を中心とするクリエーター約10人が知人のスタジオに集結し、活動がスタートした。

その時の気持ちをチームのリーダー的存在であるタワッチャイ・セーンタムチャイ氏は次のように語っている。「自分たちは政府や他の団体が発信している洪水に関する情報が不親切でわかりにくいと感じていましたが、事実、洪水が起こった時、皆どうしたらいいのかわかりませんでした。私たちは困っている人たちの信頼できる友達でありたいと思い、市民にとって正しく、わかりやすく、生き延びるために本当に役立つ情報を届けるための活動をスタートさせました」。

彼らは、あくまでもボランティアにこだわり、市民にとっての「信頼できる友達」でありつづけるため、支援したいという大企業などからの声に対してお金をもらわないというスタイルを貫き通した。

  • アニメ制作を行うために最初に集まった有志によるミーティングの風景。 Photo : RooSuFlood
  • タワッチャイ・セーンタムチャイさんたちが最初に描いたアニメの原画。 Photo : RooSuFlood
  • 洪水関連情報発信アニメ『Roo su Flood』制作を支えたコアメンバーたち。Photo : RooSuFlood
  • 活動スタート時の制作現場の様子。 Photo : RooSuFlood

国営放送と協力して、本当に必要な情報発信を

プロジェクトチームは、調査チーム、制作チームに分かれてアニメーション制作に着手した。アニメーションを制作するにあたって大切にしたポイントは以下の3つ。①求められている必要な情報を提供する。②正確な情報を提供する。③行動を強制するような情報は発信しない。この3つのポリシーを守りつつアニメーション制作は進められた。洪水の特徴として、1ヶ月、2ヶ月と被害を受けている期間が長くなるほど社会はパニック状態になっていくため、そのパニックをどれだけ軽減できるかも自分たちの活動の一つの課題とした。

合計10本のエピソード制作のフローは、①エピソードのテーマ決定②テーマに関する調査の実施③台本の作成④台本に基づくアニメーションの制作⑤エピソード完成、そして配信、である。

このプロセスにおいて重要な役割を果たしたのが、パートナーであるタイの国営放送局Thai PBSの存在である。プロセス③の「台本の作成」に関してメディアの専門家という立場から、また、多分野の専門家との豊富なネットワークを活かして的確なアドバイスを行い、また⑤の「エピソードの配信」の際には、当初YouTubeのみの自主配信の予定だったのに対し、エピソード1から自社の放送網で配信を行い、広く市民に情報を届けることに協力した。

その後もアニメーションに登場するキャラクターを活用したイベントの開催や売り上げが洪水対策の寄付金になるノベルティグッズの開発、販売など、このプロジェクトが社会に普及するために様々な支援活動をThaiPBSは展開した。

    チームの連携が生んだ、正確で質の高いアニメ。

    このプロジェクトに最終的に登録したボランティアは約200名。半分以上が学生だった。この大所帯を切り盛りし、組織を効率よく運営するために設置されたポストが「人事管理部」である。2名の専属のスタッフがボランティアの出欠などの管理を行い、アニメーション制作を滞りなく進めるために貢献した。

    プロジェクトチームによる日々の制作プロセスに関しては、毎朝必ずミーティングを行い、エピソードで何を伝えるのかをメンバー全員で話し合った。そのテーマに基づき午後は調査を実施し、検討を加え、夜にメンバーが再度集まり、調査結果などを共有し、さらなる話し合いを行った。被災地での調査に重点を置いた制作プロセスを経て台本が決定、アニメーション制作へと流れを作っていった。台本を考える際に、様々な立場や専門領域の人たちが、いろんな角度から意見を出し合ったことで、偏りのないわかりやすいエピソードが完成したことは大きな収穫だったという。

    活動を通して見えてきた課題は、約3ヶ月間という活動期間の中で、被災状況は次第に改善し、人々の意識も日に日に低くなっていくなかで、どのように活動を継続させていくかということだった。人々に一番伝えたかった「防災対策」をテーマにした最後のエピソードの閲覧件数はわずか7万件程度で、最初のエピソードの約125万件との差は歴然だった。こうした経験から、タイにおいては、災害時の対応だけでなく日頃の防災教育からしっかりと取り組まなければならないことが教訓として浮かび上がった。

    • アニメーション制作チームの日々の制作風景。Photo : RooSuFlood
    • アニメーション制作チームによって最初に描かれる台本。 Photo : RooSuFlood
    • 現地調査をベースにミーティングを重ね決定されたアニメーションの台本。Photo : RooSuFlood
    • アニメーション制作は台本決定後分業して進められた。 Photo : RooSuFlood