そのコンペは、主催者と応募者が、一緒につくる。
  • 災害発生前
  • デザイン
  • タイ・クリエイティブ・デザインセンター
  • Design for Flood

TCDCでの「Design for Flood展覧会」の開催。Photo: TCDC

被災者を中心に、
約100人へヒヤリング調査を実施。

タイ国内の72県のうち64県に被害をもたらし、1,280万人に上る被災者を出した2011年の大洪水発生後、タイ・クリエイティブ・デザインセンター(以下、TCDC)は、この大洪水の被害状況に関する現地調査を開始する。この調査には「デザインが洪水被災者の支援につながれば」という強い思いが込められていた。自然災害に関して調査を行い、その調査結果に基づいてコンペティションを行うという、これまでになかった「デザイン・シンキング(=デザインが社会問題解決のための糸口となり、暮らしと社会を発展させることができるという考え方)」を導入したプロジェクトに組織一丸となって取り組んだ。

この試験的なプロジェクトは、以下の3つのフェーズから構成される。フェーズ1:情報収集とデザイン・ブリーフの作成、フェーズ2:デザインコンぺティションとプロトタイプ開発、フェーズ3:さらなる発展と製品化のためのプロジェクトの成果普及。被災地での現地調査には、TCDCの各部署から有志のスタッフが参加。約3ヶ月間に渡って、被災者、地域のリーダー、政府関係者、ボランティアなど合計111人に対して聞き取り調査を行った。また、この調査には、中心となったTCDCに加え、KLS/KMUTT(モンクット王工科大学トンブリ校)、KMITL (モンクット王工科大学ラートクラバン校)をはじめとするデザイン学校やデザイン事務所など6つのデザイン制作機関が協力し、バンコク市内及びバンコク周辺部で現地踏査とインタビューの両方の調査が綿密に行われた。

  • 大洪水の被災者へのヒアリングの様子。

10のアイデアを選び、デザインコンペを募集する。

TCDCと6つのデザイン制作機関はそれぞれ個別に現地調査と調査結果の分析を行い、2週間ごとに全体での会合を開き、進捗状況の報告、各機関の成果の共有、プロジェクトの方向性の統一、情報の再配分化、ミスの確認などを行った。こうしたプロセスを経て、各機関は洪水がもたらす様々な問題を解決するためのデザイン・ブリーフ(デザイン企画案)を企画し、TCDCに提出、最終的に合計43点のデザイン・ブリーフが集まった。この集まった43点のデザイン・ブリーフから洪水被害の当事者である、政府機関や企業の構成員、コミュニティリーダーなどから選ばれた合計12名の審査委員が10点のデザイン・ブリーフを最終案として選出した。

最終的に選ばれたデザイン・ブリーフは、①水量観測システム②コミュニティのための公共仮設トイレ③コミュニティのための飲料水④看板と水害場所に設置する非常用グッズとマニュアル⑤学校における水に浮かぶ家具類⑥洪水時の個人移動運搬用機器⑦野菜栽培チャートと道具⑧公道脇の水量計⑨洪水時に発生しやすい病気診断マニュアルと病状記録票⑩水上ごみの収集用具、の10点である。この選出されたデザイン・ブリーフをテーマに公募型のデザインコンペが実施され、1ヶ月間という短い募集期間にも関わらず合計75点の応募作品が集まり、エンジニア、工業デザイナー、グラフィックデザイナー等で構成された審査員により10点のデザイン案が選出された。

  • プロジェクトチームによる合同ミーティング。
  • 調査結果の分析とデザインブリーフの抽出。
  • デザインブリーフごとに整理・分析をまとめたシート。
  • 入選作品『Floating Toilet【浮かぶ仮設トイレ】』。
  • 入選作品『洪水と戦うためのテーブル・チェアセット』。 Photo : TCDC
  • 入選作品『折り畳みボート』。

ウェブ上で図面の公開など、
積極的アイデアを広める。

コンペ終了後、入選した10のデザイン案についてのプロトタイプ開発が行われた。それぞれのデザイン案ごとにデザイン制作部門と製品開発部門の専門家などから成る3名の顧問が任命され、プロトタイプ開発が円滑、且つ正確に行われるための様々なアドバイスが行われた。また、進捗状況の確認のために、TCDCが中心となって関係者が集まるミーティングを2週間ごとに計5回開催し、綿密に管理されたプロセスを経て、プロトタイプは無事完成した。

そして、最終フェーズとして、現在は、プロジェクトのさらなる発展と製品化のための成果普及を目的に、①入選作品の図面をオンラインで公開(オープンソース化)、②プロジェクトの成果をまとめた『Design for Floodブック』の発行及び学校や大学、公共図書館、被災地、災害関連機関などへの配布、③『Design for Flood展覧会』の開催、の3つのプログラムが多面的に展開されている。

そのなかでも、①の入選作品の図面のオープンソース化に関しては、デザインの使用許可を取る必要のない、誰でも利用可能なオープンソースとして公開されており、興味を持った人はすべてプロトタイプからの製造もしくは再開発が許されている。

また、③の展覧会に関しては、2012年12月20日~2013年1月27日までTCDCのエントランスロビーで開催され、2013年11月より入選作品の中から4つの作品を選定し、地方都市を巡回展示する「MiniTCDC」という展覧会企画がスタートする予定である。

  • 入選作品の図面データをオンライン上で公開。
  • 『Design for Floodブック』を発行・配布している。
  • 『Design for Floodブック』を発行・配布している。
  • 『Design for Flood展覧会』の開催。Photo : TCDC
  • 『Design for Flood展覧会』の開催。Photo : TCDC