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- 災害発生直後
- デザイン
- アヤラ美術館
- The Filipino Spirit is Waterproof
http://waterproofph.tumblr.com/
できることからする、
という謙虚な気持ちではじめる。
2012年8月に台風11号の影響でマニラ市内全域が断続的な豪雨に見舞われ、その影響で大規模な洪水が発生し、都市機能は一時完全に麻痺した。
アヤラ美術館に所属する、スパイク・アコスタ氏とジェイ・エンテ氏は、当時、広報を担当しており、美術館を一部の愛好家にしか利用してもらえない状況から脱却させ、もっと多くの人々にアートを楽しんでもらえるようソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを活用して積極的に広報活動を展開していこうと考えていた。
そうしたなかで大洪水がマニラ市内で発生、アコスタ氏とエンテ氏は大洪水に対して今自分たちにできることをやろうと考え、当日ニュース映像で映し出されていた被災地で懸命に頑張っている被災者とその支援者を元気づけようと、アコスタ氏が考えた「The Filipino Spirit is Waterproof」というスローガンを、当時ちょうど整備していた美術館のツイッターを通じて発信した。
この「The Filipino Spirit is Waterproof」は、「フィリピン人の精神は決して水に負けない」という意味だけでなく、「洪水に負けずみんなで助け合おう!」というメッセージも込められたスローガンだった。この「助け合う」という考え方は、フィリピン人なら誰でも持っている精神で、タガログ語で「Bayanihan(バヤニハン)」という伝統的相互扶助慣行のことを示す言葉も存在し、広く認知されている。
こうしたフィリピン人の心に響くメッセージをスローガンに込めたことで、本活動は結果的にたくさんの人々の共感を得ることができたのである。
多くの人がSNSを利用する、都心の特性をいかす。
このアコスタ氏とエンテ氏の純粋な思いで発信されたスローガンに対して、思いもよらない反応が起こり始める。このスローガンをツイッター上で見たフィリピンのクリエイターたちが、スローガンからインスピレーションを受けたビジュアルデータを次々と投稿してきたのである。
最初の2、3時間で20の投稿が寄せられ、その後どんどん投稿は増え続け、1ヶ月の間に133のビジュアルが集まった。集まったビジュアルとスローガンを組み合わせたたくさんのポスター作品は、Tumblr(タンブラー)というSNSにアップロードされ、自由に閲覧できるよう公開した。
こうした取り組みはフィリピンでも初めてで、普段からSNSを活用しているマニラ市民が被災者であり、支援者でもあったことから成立した取り組みだったと考えられる。
その後、この活動はテレビや新聞、ウェブのネットニュースなどで取り上げられて広くマニラ市民に知られるようになった。中には表面的な啓発活動だと言及する厳しい意見もあったが、この活動が周知されるようになったことで、マニラ市民の防災意識が少なからず高まったこと、洪水を助長させているフィリピンのインフラの問題に関する議論が始まったことを考えると一定の効果はあったと思われる。