その壁は、机にもなる。椅子にもなる。
  • 災害発生直後
  • 建築
  • 古谷誠章
  • 建築家、早稲田大学教授
  • 田野畑村テンポラリー・ブース

閉塞感がない、シンプルな構造にする。

2011年4月、東日本大震災の津波の被害を受けた岩手県田野畑村の住民は、市民ホールに避難していた。

この市民ホールの設計に携わり、田野畑村とは数十年来の付き合いがあった古谷氏は、村からの依頼を受け、避難所用のプライベート・ブース(個室空間)を制作した。

材料には強化段ボールを使用し、シンプルな形で、出来る限り閉塞感の無いようにとの発想から生まれたプライベート・ブースだ。

  • 田野畑村の避難所で、更衣室や勉強部屋として使われたブース。

現場の声に柔軟に対応し、
避難所の不便を解消する。

当初、ブースは世帯ごとの生活空間として使ってもらう予定で設置を始めたが、既に集団生活の始まっていた避難所の中で、世帯ごとに仕切りが生まれる事が好まれなかったため、着替えのときや子どもが勉強をするときなどに困っていた個人のためのプライベートスペースとして利用されることとなった。

またこの時に、古谷氏は食事も読書もすべて床でしなければならない不自由さに気付き、二回目の支援の時には、家具デザイナー藤江和子氏とともに、ブースの段ボール箱で家具を作った。この段ボールの家具は避難所の中では好評で、卓袱台は3日間で50台の注文を受け現地で制作した。

また、テキスタイルデザイナー安東陽子氏の考案により、ブースの入口には2色組み合わせたシフォン素材でカーテンを設置した。シフォン素材は見た目にも美しく、カーテンをスライドさせれば透明度が調節できる。何より、極端な境界が生まれ無いように配慮した。

あらかじめ用意したものを使ってもらうのではなく、現場からニーズをくみ取って、提案し、本当に望まれていることを実現する古谷氏の柔軟性は、村からの更なる信頼を得て、復興計画にも携わり、新たな村の再生に力を注いでいる。

  • 第1回目の支援では、段ボールシートでテンポラリーブースと、白い段ボール箱で小さな仕切りを制作。
  • 第2回目の支援では、藤江和子氏と小さな家具を、安東陽子氏とブース入口のカーテンを制作し、個人用のブースが完成した
  • 田野畑復興会議に参加した古谷氏。制作した模型を元に未来の村について議論を重ねる。